一人一台の端末が活用できるようになり、学校で使うものもどんどんデジタルに変わっています。教科書も例外ではなく、2024年度から小学校5年生〜中学校3年生を対象に、英語のデジタル教科書が導入されることになりました。しかしこの「デジタル教科書」、厳密には、デジタルの良さである「音声」や「動画」は含まれないんです。今回は「デジタル教科書」について詳しく解説します。
目次
2024年度から先行導入が始まる「デジタル教科書」
2022年8月25日、文部科学省中央教育審議会の作業部会で、2024年度から、デジタル教科書を先行導入する方針が大筋で了承されました。先行して導入されるのは、小中学校の英語で、その後は算数・数学などの導入が検討されています。特に英語は、音声を聞くことができるため、すでに試験的に導入されている学校でも重宝されているといいます。
「教科書」「デジタル教科書」「補助教材」って何?
「教科書」は、文部科学大臣の検定を経たもの又は文部科学省が著作の名義を有するものが使われます。小中学校では教科書を使用しなければならないことが義務付けられています。
一方で、「デジタル教科書」は、「紙の教科書の内容の全部をそのまま記録した電磁的記録である教材」とされています。(学校教育法第34条第2項及び学校教育法施行規則第56条の5)
したがって、音読のデータや、動画、アニメーションなどは、「紙の教科書の内容をそのまま記録したもの」ではないため、厳密には「デジタル教科書」に含まれないのです。
これらのデータは「デジタル教材」とされ、デジタル教科書とあわせて有効活用されることが想定されています。
「デジタル教科書」だけで可能になること
デジタル教材が含まれないデジタル教科書のみで可能になることは、
- 教科書の紙面を拡大して読む
- 教科書の紙面にマーカーやペンでの書き込みを繰り返しおこなう
- 教科書の紙面に書き込んだ内容を保存する
- 教科書の紙面の内容を機械音声で読み上げる
- 教科書紙面の背景や文字の色を変更・反転する
- 教科書の漢字にルビを振る(また、分かち書きにする)
などが挙げられています。
学習者用デジタル教科書の効果的な活用の在り方等に関するガイドラインより
「紙の内容をそのまま」であるため、導入の利点が限られるのが現状です。さらに便利にするためには「デジタル教材」を合わせて活用することが必要です。
「デジタル教科書」と「デジタル教材」で可能になること
デジタル教材を合わせて使用すると、
- 音読・朗読の音声やネイティブ・スピーカー等が話す音声を教科書の本文に同期させつつ使用する
- 教科書の文章や図表等を抜き出して活用するツールを使用する
- 教科書の紙面に関連付けて動画・アニメーション等を使用する
- 教科書の紙面に関連付けてドリル・ワークシート等を使用する
などが可能になります。
学習者用デジタル教科書の効果的な活用の在り方等に関するガイドラインより
このように見ていくと、「デジタル教材」を合わせて使ってこそ、子どもたちにとってのメリットも広がるように感じられます。
デジタル教科書導入に費用はかかる?
通常の紙の教科書は、義務教育教科書無償給与制度により、子どもたちに無償で配布されています。この制度は1963年度から実施されています。現在、デジタル教科書は紙の教科書とは異なり、学校で使用が義務付けられているわけではありません。そのため、教科書のように無償給与はされていません。
2022年度は、紙の教科書の費用が460億円かかっており、国家予算に計上されています。デジタル教科書が導入されてからも、紙の教科書はしばらく併用されることが見込まれています。そのため、2024年度に先行導入が始まった場合は、デジタル教科書の分も国が負担する財源を確保する必要があると見られています。
なお、デジタル教科書と合わせて使用されるデジタル教材は、補助教材と同じ扱いになり、受益者負担となります。つまり、保護者が費用を負担しなければなりません。
導入のメリットをより享受するためにはデジタル教材の活用が必須とも言える状況ですが、保護者の負担が増えることになってしまいます。
デジタル教科書の今後の在り方とは
「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議」では、本格的にデジタル教科書を導入していくにあたり、教科書の検定制度や、紙の教科書との併用について検討していくべき点が挙げられています。
【デジタル教科書にふさわしい検定制度の検討】
○ 将来的には、デジタル教科書の内容としてデジタルの特性を生かした動画や音声等を取り入れることも考えられ、そのための教科書検定の在り方の検討が求められる。
○ 令和6年度の小学校用教科書の改訂については、編集・検定・採択をそれぞれ令和3・4・5年度に行う必要があり、実際には既に発行者が準備を進めていることから、本格的な見直しは次々回の検定サイクルを念頭に検討することが適当と考えられる。
【紙の教科書とデジタル教科書との関係についての検討】
○ 令和6年度からのデジタル教科書の本格的な導入を目指すに当たり、児童生徒に対する教育の質を高める上で、紙の教科書との関係をどのようにすべきかについて、全国的な実証研究や関連分野における研究の成果等を踏まえつつ、更には財政負担も考慮しながら、今後詳細に検討する必要がある。
○ 紙とデジタルの教科書の使用については、概ね次のような組合せの例が考えられる。
・全ての教科等でデジタル教科書を主たる教材として使用
・全て又は一部の教科等で紙の教科書とデジタル教科書を併用
・発達の段階や教科等の特性を踏まえ、一部の学年又は教科等において導入
・設置者が学校の実態や紙の教科書とデジタル教科書それぞれの良さや特性を考慮した上で選択
・デジタル教科書を主たる教材として、必要に応じて紙の教科書を使用
引用元:参考デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議第一次報告について
検討事項は山積 それでも進んでいく教育DX
今回はデジタル教科書について解説しました。2024年度に先行導入が決まったものの、費用の問題や「教科書」と「デジタル教科書」の関係、「補助教材」の扱いなど検討すべき事項は山積しています。先行導入やその先の教科書検定などに向けて、さらなる議論が期待されます。
参考資料
文部科学省 学習者用デジタル教科書について
学習者用デジタル教科書の効果的な活用の在り方等に関するガイドライン
参考デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議第一次報告について
教科書・教材・ソフトウェアの在り方ワーキンググループ
デジタル教科書、英語から 文科省24年度導入へ(日本経済新聞 2022年8月19日)
デジタル教科書、英語から導入 シンプルな機能、紙も併用(教育新聞 2022年8月25日)
デジタル教科書、英・数で導入 学校教育のDXへ一歩(日本経済新聞 2022年8月25日)
デジタル教科書、なぜ導入? 一斉授業の転換点に(日本経済新聞 2022年8月26日)