通常学級に在籍する特別な支援を必要とする子どもたちの現状〜文部科学省の調査から
Pocket

12月13日に、「通常学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について」が文部科学省から公表されました。この調査結果について各メディアのニュースで「公立小中学生 8.8%に発達障害の可能性」などとして取り上げられました。改めてこの調査の目的や方法、内容についてご紹介します。

調査の目的:通常学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする子どもたちの現状を明らかにすること

通常の学級に在籍する教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査は、平成24年に実施されています。そこから10年が経過して今回の調査が行われました。
この10年の間には、発達障害者支援法の改正、高校における通級指導の制度化、小中高等学校学習指導要領における特別支援教育に関する記述の充実など、発達障害を含め、障害のある児童生徒をめぐる状況にかなりの変化がありました。
そのため、現在の通常学級に在籍する支援を必要とする子どもたちの実態と支援の状況を明らかにするために、今回の調査が行われています。

調査の方法について

この調査は2022年1月から2月にかけて実施されました。全国の小中学校、高校を対象としています。層化三段抽出法と呼ばれる方法で抽出された学校・学級の児童生徒について調査が行われました。
調査の回答は、学級担任などの先生が記入します。その後、特別支援教育コーディネータの先生または教頭先生が確認し、校長先生の了解のもと回答されます。担任の先生が判断に迷う場合は、校内の委員会や教務主任、教科担任の先生方にも相談することができるとしています。
その回答を集計し、各領域で定められた基準値を上回った場合、その児童生徒が該当する領域について「困難を示す」とされる様になっています。

このように本調査の児童生徒の困難の状況については、学級担任による回答に基づいています。したがって、発達障害の専門家のチームや、医師による診断ではありません。この調査自体は、発達障害の診断を受けた児童生徒の数の割合を示すものではなく、通常学級の中で教育的支援を必要とする児童生徒の割合を示すものです

小中学校では8.8%、高校では2.2%の児童生徒が困難を示している状況

結果としては、学習面また行動面で著しい困難を示すとされた児童生徒の割合は、小中学校で8.8%、高校で2.2%となりました。冒頭に紹介した記事にも記載されています。
学習面または行動面で著しい困難を示すとされた児童生徒の割合を校種、学年別に見ていくと、小学校全体は10.4%、中学校全体は5.6%となっています。小学校2年生が一番高く12.4%、中学校3年生が4.2%でした。

児童生徒の受けている支援の状況について

上記の「学習面または行動面で著しい困難を示すとされた児童生徒」のうち、どれだけの児童生徒が授業等で支援を受けることができているのかも調査されています。

学習面または行動面で著しい困難を示すとされた児童生徒(小中学校8.8%、高校2.2%)に対し、授業時間内に教室内で個別の配慮・支援を行っているという回答は、小中学校で54.9%、高校で18.2%でした。他方、個別の配慮・支援を行っていないという回答は小中学校で43.2%、高校で80.7%でした。
また、学習面または行動面で著しい困難を示すとされた児童生徒(小中学校8.8%、高校2.2%)が、特別支援教育支援員による支援の対象になっているかどうかについて、なっているのが小学校で13.8%、高校で8.8%、なっていないのが小中学校で83.9%、高校で88.9%でした。

つまり、学習面や行動面で困難を抱えていると考えられる児童生徒が教室にいるにも関わらず、彼らへの支援はかなり限定的なものであるということです。特別支援教育支援員は、通常学級の中にいる児童の支援のために配置されるにもかかわらず、支援を必要とする児童生徒の8割以上が支援を受けられていないという現状が見て取れます。

また、そもそも学習面や行動面で著しい困難を示すとされた児童生徒について、校内の委員会などで特別な教育的支援が必要と判断されているかという設問に対して、小中学校で70.6%、高校で79.0%が必要と判断されていないと回答されています。

調査の結果が意味するもの:教員や保護者の意識の高まり、子どもをとりまく環境の変化、学校の人手不足

これらの結果を受け、有識者会議座長の宮崎先生は調査資料の中で、以前の調査に比べて困難を抱える子どもの割合が増えたことに対して、以下のように述べています。

増加の理由を特定することは困難であるが、通常の学級の担任を含む教師や保護者の特別支援教育に関する理解が進み、今まで見過ごされてきた困難のある子供たちに より目を向けるようになったことが一つの理由として考えられる。そのほか、子供たちの生活習慣や取り巻く環境の変化により、普段から1日1時間以上テレビゲームをする児童生徒数の割合が増加傾向にあることや新聞を読んでいる児童生徒数の割合が減少傾向にあることなど言葉や文字に触れる機会が減少していること、インターネットやスマートフォンが身近になったことなど対面での会話が減少傾向にあることや体験活動の減少などの影響も可能性として考えられる。

通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について 18ページより抜粋

 

教員や保護者の理解が進んだことにより、今まで見えにくかった子どもたちの姿が捉えられるようになったこと、子どもたちの生活習慣や環境が変化していることが影響している可能性を指摘しています。

また、困難を抱える子どもの支援の状況について以下のように述べています。

一方で、学習面又は行動面で著しい困難を示す児童生徒のうち、校内委員会において特別な教育的支援が必要と判断されていない児童生徒については、そもそも校内委員会での検討自体がなされていないことが考えられる。そのため、校内委員会が効果的に運用されていないなど、学校全体で取り組めていない状況が見受けられる。管理職によるリーダーシップの下、特別支援教育コーディネーターを核として全教職員で特別な教育的支援を必要としている児童生徒に対して必要な支援がなされるよう校内支援体制の構築と充実を図るとともに、それを支えるための仕組みについても検討する必要がある。

通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について 19ページより抜粋

困難を示す子どもについて、校内の委員会の体制などを整えることで学校全体での支援を充実させることと、それを支える仕組みについて検討することが必要であるとまとめています。

今回の調査の結果からは、通常学級の中で困難を抱える児童が支援を受けられていないという状況が明らかになったといえます。通常学級の子どもたちの支援のあり方や体制について考える機会になるかもしれません。

おすすめの記事