【取材記事】学校でも家でもない、もう一つの子どもの"居場所"〜地域密着の本屋さん「真鶴・道草書店」
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本を多く読む子は読解力も高くなる傾向にあると言われています。学校の図書館は子どもたちが本に気軽に触れ合える場所の一つですが、全校一斉の読書活動の時間を設ける学校は減少傾向にあるようです。そんな中、町の中で子どもたちが本に気軽に触れ合える空間が、神奈川県の真鶴にありました。街並みに馴染むとっても素敵な本屋「道草書店」です。今回は道草書店をご紹介します。

子どもの読書を取り巻く環境の変化

「学校読書調査」の結果をみると、小学4〜6年生の月の平均読書冊数は2018年から増加傾向にあります。しかしその月に本を1冊も読んでいない「不読者」の割合はコロナ禍を経て上昇しているという結果も出ています。図書館数、図書館でのオンライン閲覧目録の導入率、学校司書を配置する学校等の割合は増加している一方で、 図書館の児童用図書の貸出冊数、全校一斉の読書活動を行う学校の割合は減少しているのが現状です。
また、全国の書店の数や書店での販売額は減少、インターネットでの書籍販売額は増加しています。購入した本に触れることはあっても、書店なかで本を選ぶという経験をしている人が少なくなっているのかもしれません。

子どもが本を手に取る場所に〜地域のいこいの場「道草書店」〜

子どもも大人も自由に過ごし、本に触れ合える書店が、神奈川県の真鶴にありました。真鶴駅から住宅街を歩いて5分ほどの場所にある「道草書店」です。

 

ゆるく弧を描く木の屋根は、道のカーブに合わせたこだわりの屋根。真鶴町には、まちの美しさを定めた「美の基準」があります。その基準にもマッチする、風景と調和した本屋さんです。今回は店主である中村さんにお話を伺いました。

 

入口の本棚には幅広いジャンルの本が

 

中村さんご夫婦は、もともと書店の多い文京区に住んでいました。真鶴町に移住してから町に新刊を扱う本屋がないことを知り、自分達で本屋を始めることにしたそうです。移動本屋から始めて、店舗をもつように。今は新刊だけでなく古本や、「こども図書館」から引き継いだ蔵書も置き、カフェスペースも用意して、地域の方の集まる場所になっています。

 

カフェスペースの机には、昔の学校の図工室で使われていたものも。

「こども図書館」を引き継ぐ

真鶴町の隣の湯河原町には、長年運営されていたこども図書館「こみち文庫」がありました。こみち文庫の代表の方が引退されることになり、その役割を道草書店が引き継ぐことになったのです。こみち文庫の蔵書を引き継いだ「こども図書館」の部屋は、天井近くまである本棚に絵本や児童書がぎっしり。
子どもも大人も自由にこの場所の本を手に取って読むことができます。読み聞かせ用の大きな絵本もあり、子どもたちの興味をひいてくれそうです。

 

天井近くまである本棚に囲まれたこども図書館スペース

 

また、こども図書館から引き継いだもの以外にも、近所の方や絵本作家の方からの寄贈もあるそうで、子どもたちに本を、という思いが感じられるあたたかい場所になっています。

本との出会いを大切に

小学校では図書の時間など授業の中で図書館を利用し、本を読んだり読み聞かせをしてもらったりするここともありますが、本が好きでその時間を楽しみにしている子は多いですが、中には本を選べずにいる子もいます。「読まないといけない」という環境に置かれると、読書から気持ちが離れていってしまう子もいるでしょう。

「読まされると嫌いになっちゃうけど、本がいっぱいあるところにいると子どもが自分から手に取ってみるようになるんですよね」

中村さんは、ご自身のお子さんが、本屋をはじめてから自分で本を手に取るようになったのを見て、本との出会い方が大切だと改めて感じたそうです。
道草書店のように、子どもが自然と本に触れ合える場所が増えれば、たくさんの本と子どもたちの出会いが生まれるかもしれません。

募集が始まったばかりの「わたしの本屋」という一箱本屋オーナー制度。一箱ごとにオーナーが違い、人と人がつながるきっかけになっている。

学校と家と、もう一つの居場所に

子どもたちが大人と関わる場所といえば学校と家。そのほかの場所で大人との関係性はなかなか芽生えません。道草書店は、「第3の場所」として子どもたちがいろいろな大人と出会う場にしたい、と中村さんは話します。
人口の約半数が65歳以上の高齢者である真鶴町でも、町のおじいちゃん、おばあちゃんが子どもたちと関わる機会はそう多くありません。道草書店は、子どもたちが遊びにくることもあれば、地域の幅広い年代の大人がコーヒーを飲みにきたり、本を探しに来ることもあります。別々に来た人同士が同じ空間にいるだけでも、交流は自然と生まれるもの。子どもたちが大人と関わる「家」「学校」以外のもう一つの居場所として、道草書店は地域の人みんなの手で育てられています。

本と人、人と人の出会いの場

道草書店は、本と人、人と人が出会う地域のあたたかい場所でした。本を選ぶという経験を、子どもの頃からたくさん積める場所があるのは素敵ですね。学校の図書館や地域の図書館も同じように本と出会う場ではありますが、書店には人との出会いもありました。地域に根付く本屋さんが増えれば、読書好きの子どもも増えるかもしれません。ネットで手軽に本を買える時代ではありますが、あえて町の書店に足を運んでみてはいかがでしょうか。

道草書店:足柄下郡真鶴町岩259-1
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