高校の「探究の時間」を探究せよ!西田川高校の挑戦 #1 探究学習の成果と課題とは
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小学校、中学校には「総合的な学習の時間」がありますが、高校のカリキュラムには「総合的な探究の時間」が存在します。総合的な探究の時間は高校の新学習指導要領により始まったもので、2022年度から完全実施されることになったものです。特定の教科の枠にとらわれず、生徒が主体的に課題を設定し「探究」を進めていくという学びの形に、教員も試行錯誤しています。そんな中、生徒、教員、そして地域の方を巻き込んで、探究学習自体を探究することに取り組んでいる高校が福岡にありました。福岡県立西田川高等学校の総合的な探究の時間と、探究の時間の探究についてご紹介します。

福岡県立西田川高等学校はどんな学校?

福岡県立西田川高等学校(以下、西田川高校)は、福岡県の中央付近に位置する田川市にあります。2021(令和3)年度から「フレックス型単位制高校」となり、生徒一人ひとりが授業を選んで時間割を作り、自分にあった学びを進めています。生徒はそれぞれ午前のⅠ部、午後のⅡ部、夜間のⅢ部に所属します。部によって時間帯が異なるので、自分にあったライフスタイルと高校での学びを組み合わせる事ができるようになっています。

画像:学校案内リーフレットより

 

たとえば、Ⅱ部を選択すれば授業の始まりの時間が遅くなるので、遠方からの通学にも対応することができます。また、夜間の部に所属して、働きながら学ぶことも可能になります。
それまでの教育課程で学習していた3年生が2023年3月に卒業したため、2023年の4月からは、すべての生徒がフレックス型単位制の教育課程に属することになります。

西田川高校の探究学習とは

単位制の教育課程の中にも、もちろん探究学習の時間は含まれます。
新入生年次(1年生)はホームルームや総合的な探究の時間で自己内省を行い、年度の後半から「ミニ探究」を行います。他方、在校生年次(2年生)は、前年度に「ミニ探究」を行っていることから、年度当初に「田川探究」のテーマを決め、1年間かけて探究を行っています。

ミニ探究」も「田川探究」も、学校や地域など生徒たちにとって身近な場所を出発点としています。田川探究では、自治体の方や地域で働く方など身近な方々が講師として関わってきたそうです。生徒たちは、学校の先生だけでなくそういった周囲の大人たちと関わりながら、自分たちの課題に対して目標を定め、行動し、また新たな課題にぶつかり、行動し……と探究を進めてきたとのこと。

テーマ自体が地域課題と密接に結びついているため、どれも容易に解決できる問いではありません。それでも多くの生徒たちが自分たちが立てたテーマに対して行動を起こしていました。

最終発表は体育館で!自分たちの学びを自分たちらしく発表する姿

新入生年次、在校生年次ともに、3月3日に探究学習の最終発表会が行われました。在校生、探究の時間の講師だけでなく、30名ほどの教育関係者、地域の方が見守る中、探究学習の成果を生徒たちは堂々と発表していました。

ミニ探究は「西田川高校の課題」に目を向けて

新入生年次の探究のテーマは、「西田川高校のをより良くするには」という点に目を向けたものなっており、代表グループによる発表が行われました。各グループは自分たちが考える「西田川高校の課題」に対し、アンケート等で実態を調査、その結果から自分たちの提案を行っていました。

Ⅰ部、Ⅱ部、Ⅲ部と分かれていることから「Ⅲ部が参加しやすい学校行事の運営法」を提案するグループがあったり、定期考査の試験範囲をいつ頃、どのような方法で提示してほしいかを先生方に提案するグループがあったりするなど、生徒にとって身近で切実な課題が選択されていることがわかります。

在校生年次の田川探究はハイレベル!自治体との連携も

在校生年次の「田川探究」は、学校内の課題を掘り下げたミニ探究からさらにステップアップし、田川や地元後藤寺地区の課題をテーマにしています。後藤寺の商店街の空き店舗の問題、町のゴミのポイ捨て問題、コミュニティバスの活性化に向けた課題など、重要ではあるものの難易度の高い課題が挙げられていました。
その中でも自分たちが実際に行うことができる内容を考え、次々に行動を起こしていたことが各チームのメンバーから語られました。

田川のお土産について考えた生徒たちは、企業に新しいお菓子を提案しにいったものの残念ながら採用はされませんでしたが、自分たちで試作を繰り返し、もう一度提案しに行ったそうです。また、田川でe-sportsをやりたいと考えた生徒たちは、実際に体験会に足を運び、校内で生徒向けに体験会を自分たちで開いたといいます。
地域の方と協働した例では、コミュニティバスの活用を促すためのチラシを作成したグループや、地元のゆるキャラを制作したチームなどがありました。

探究学習が終わっても、授業とは関係なく取り組みを続けていきたいと話している生徒たちもおり、「考え、行動する」ことを繰り返し行ってきたことが生徒たちの自信にもつながっているようでした。

探究学習を探究しよう〜理想の探究学習を求め行動する学校の姿

課題に向けて行動を起こしているのは生徒たちだけではありません。探究学習自体を探究しようとしているのが、西田川高校で探究学習を担当している北敢(きた・いさむ)先生です。
今後の探究学習をどのようなものにしていくのかを、教員や、すでに探究学習に関わっている講師の方、教育関係者、地域の方々、さらには生徒まで巻き込んで考える企画に取り組んでいます。

探究学習の中で本当に協働できているのか、という疑問

探究学習について生徒にとったアンケートの結果を見ると、「探究学習に取り組むにあたって行動を取ることができたか」などの質問に対して、「すごく行動できた」と答えた生徒がいる一方で、同じくらいの割合で「まったくできなかった」と答えた生徒もいました。しかし目立ったのは、ほとんどの生徒が「普通」と答えていたこと。

北先生はその部分を課題と捉えていて、「普通」と答えた生徒の層が、実は「なにもやっていない層」なのではないかと考えています。

実際、生徒たちの最終発表の中でも、複数のチームで「課題に熱心に取り組んだメンバーもいたが、なかなか行動に起こせないメンバーもいて負担が偏った」という感想が出ていました。

これでは複数のメンバーで協働することもできず、負担が大きくなってしまうメンバーは「大変」「やりたくない」という思いを抱くことにもつながってしまいます。これが続いてしまっては、本質的な学びにはなりません。

「メンバーに言われてやる」「先生がやれといったからやる」という動機ではなく、生徒たちが主体的に取り組むことができる探究学習の在り方を求め、様々な立場の大人も生徒も一緒に参加する今回のようなワークショップを企画しています。
高校の「総合的な探究の時間」の目標の中には、「探究に主体的・協働的に取り組むとともに、互いのよさを生かしながら、新たな価値を創造し、よりよい社会を実現しようとする態度を養う」という項目があります。このワークショップも、立場の違う人が集まり、それぞれの視点からよりよい「探究学習」について考えるという点で、まさに探究学習の目標に合致している取り組みです。

課題を出し合うワークショップ

ワークショップの1回目のテーマは、「西田川高校の課題」。探究の学習の第一歩は、課題を発見することです。学習指導要領解説編によると、課題を発見するとは、「自分と課題との関係を明らかにすること」「実社会や実生活と課題との関係をはっきりさせること」とされています。高校の内外問わず、立場も問わず、参加者が率直に課題だと思うことを出し合いました。

全体の意見を見ると、「欠席者が多い」という大前提の部分から、「今の自分と将来の自分が結びついていない」「意欲がない」など、忌憚のない課題点が挙げられました。外部から見ているだけではわからない点についても、通っている生徒や指導にあたっている先生からの意見があると少しずつ実態が見えてきます。大人だけでなく生徒目線で課題がわかるのもこのワークショップの興味深いところです。

 
立場が違うからこそ見える課題も異なりますが、協働的に話し合う雰囲気が作られており、ワークショップの時間が終わったあとも、参加者の多くが残って教育に関わる話題で盛り上がる姿が見られました。
 

ワークショップの参加者の多くが、プログラムが終わったあとも残って交流を深めている。
生徒から大人に話しかける姿も。

 
最終発表で生徒たちの輝く面を見せながらも、学校の課題点についても包み隠さず共有し、さらに周囲の大人同士の交流を生むこの取り組みは、社会に開かれた教育課程」を具体化したものの一つかもしれません。

ワークショップは全3回が予定されており、あと2回実施されます。次回は「理想」を探究する予定とのこと。探究学習を探究する西田川高校から、今後も目が離せません。

参考:福岡県立西田川高等学校HP

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