教育委員会から始まる教育改革!書籍紹介〜遠藤洋路「みんなの『今』を幸せにする学校」
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もともとは文部科学省の職員であり、起業して事業を経営していた経験もある熊本市の教育長、遠藤洋路さん。国としての視点、地域としての視点、そして経営者としての視点をもって、熊本市の教育を大きく変えていっています。
遠藤洋路教育長の著書「みんなの『今』を幸せにする学校」より、タイトルにもなっている「『今』を幸せにする」とはどのようなことを指すのか、本書の中からご紹介します。

子どもの「今」を幸せにする〜学校は「今」が苦手?

熊本市の教育振興基本計画の基本理念は「豊かな人生とよりよい社会を想像するために、自ら考え主体的に行動できる人を育む」です。
その上で、学校がなんのためにつくられているのか学校教育法などの法的根拠を探りますが、著者は以下のようにまとめています。

学校教育の目的や目標は、将来的に個人と社会のために必要となる資質を身につける、ということです。教育の成果は、必ず未来(数秒後から数十年後まで幅はありますが)に現れます。教育は本質的に「未来のための行為」なのです。
(「みんなの『今』を幸せにする学校」P.42 より)

教育は「将来」のためのものではありますが、実際、子どもたちは1日のかなりの時間を学校で過ごしています。だからこそ、子どもたちが「今、幸せであること」を保障することも、学校の役割の一つだと考えられます。
しかし学校は、教育を目的としていて「将来」の幸せを重視することが多いのが現状です。いじめや不登校の問題、厳しすぎる校則なども子どもたちの「今」の幸せにかかわっています。

そのため、熊本市の学校改革として、子どもたちの「今」の幸せにかかわる

  • 校則・生徒指導のあり方の見直し
  • 体罰・暴言の対応の制度化
  • 不登校生へのオンライン支援
  • などが進められています。

    教職員の「今」を幸せにする〜働き方改革は「新たな時間を創造すること」

    一方、教職員の「今」の幸せについても本書では検討されています。教員の仕事の中で、子どもたちと一緒に活動したり、彼らの成長を感じたりすることは今も昔も変わらない良い部分です。しかし昔に比べて学校に求められるものが増え、教員の負担は大きくなるばかりであることも事実です。したがって熊本市では、教員の仕事の良い面を残しながら、負担を減らすというのが、教員の今を幸せにする働き方改革の方針になっています。

    負担軽減のため「新たな時間を創造する」ことが必要であると著者は説いています。新たな時間は大きく2種類に分けられ、一つは「仕事のための時間」、もう一つは「自分のための時間」です。

    「仕事のための時間」も更に二つに分けて説明されています。一つは、これまでの仕事を充実させる時間です。そしてもう一つは「新しい仕事をする時間」だと言います。

    もう一つは、ICT化への対応のように、子供の為になる新しい仕事をする時間です。時々、新しい仕事が増えると「働き方改革に逆行する」などと言う人がいますが、それはまったくの筋違いです。働き方改革を単なる時間削減だと捉えてしまうと、そうした見方になってしまいます。新しい仕事をする時間を生み出すためにこそ、働き方改革が必要なのです。
    ( P.149より)

     

    他方、「自分のための時間」とは、教員一人ひとりの仕事以外の時間のことです。

    「すべては子供のために」という言い方があります。「組織としての学校」に関してはそのとおりですが、「個々の教員」に関してはそうではありません。学校は子供のためにつくられた施設ですから「すべては子供のために」でいいのですが、教職員は全人格が子供のために存在するわけではありません。そこを区別しなければ、働き方改革はできません。
    (P.150)より

     

    このような考え方のもと、熊本市では教育委員会が中心となって教職員の働き方改革が進められています。校務支援システムなどをはじめとして、仕事の中の仕組みを作ることで、仕事の総量を減らすことや、再任用や外部人材の登用などで人手を増やすこと、学校閉庁日や自動応答電話の導入などにより時間を意識した働き方ができるようにすることが実際に行われています。

    こういった取り組みが実際に効果を上げていて、時間外勤務が80時間以上になる教員数が少しずつ減っているアンケート結果が出ています。しかし、授業準備や部活動の練習・大会引率の対応等にはまだ時間がかかる状況が続いています。
    同時に、教員が感じる業務の「負担感」についてもアンケートが取られており、「負担感がある」という回答が多い業務(通知表関連、指導要録関連など)は、業務の時間としてはそこまで多くありません。この結果から著者は「教職員のウェルビーイング向上のためには、勤務時間の削減と精神的な『負担感』の軽減の両方が必要ですが、それぞれ取り組むべきポイントは異なる」(P.164より)と述べています。

    教育委員会から教育が変わる!

    このようにして子どもや教職員の「今」が幸せになるように改革が行われています。熊本市教育委員会の中には、ご自身で教育漫画を出版されている方や、様々なSNSで情報発信をしている方がいます。他ならぬ教育長ご本人が、SNSや書籍の他さまざまなメディアを通じて情報発信・情報共有をしています。また、教育委員会の会議もオープンにされており、Youtubeでライブ配信が行われています。
    さらに、いじめが原因となった不登校の件数の調査を新たに行ったり、教師による体罰・暴言への対応として第三者がチェックする仕組みを作ったりと、教育委員会が率先して変化しています。こういった変化が、学校へ、教職員へと伝わり、子供の姿にあらわれていくのでしょう。

    「『今』の幸せ」という視点を意識してみては

    本書に掲載されている事例や、その施策に至った経緯、データなどを見ていくと、学校、地域、子供、保護者、教職員など教育を取り巻く様々な視点を踏まえ、中庸であることに気付かされます。「将来」のための教育であることは前提としながらも、「今」も幸せにするという視点を取り入れることは、これからの学校を考えていく上で必要となっていきそうです。学校教育にかかわる方はぜひご一読ください。

    みんなの「今」を幸せにする学校 不確かな時代に確かな学びの場をつくる

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