【取材記事】教育に「選択肢」を—— 熊本のオルタナティブスクール”WING SCHOOL”とは
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一般的な公立・私立の小中学校以外の学校が増えてきています。フリースクールやオルタナティブスクールと呼ばれ、各学校では独自のカリキュラムに基づいて教育が行われています。今回は、熊本県にあるオルタナティブスクール WING SCHOOLに見学に行ってきました!実際の学校の様子をご紹介します。

WING SCHOOLとは

熊本県熊本市にあるWING SCHOOLは、2018年4月に設立されたオルタナティブスクールです。現在は、70名程度の子どもたちが在籍しています。熊本県内をはじめ、福岡県や大分県から通っている子や、関東圏から一家で移住して来た子など、バックグラウンドも様々です。小学校1年生から中学校3年生までの子どもたちが日々自由に学んでいます。

WING SCHOOLでは、「感性」「知性」「創性」を磨くことで、幸せな未来を築く力をつけていくことが目指されており、自然体験活動や教科学習、プロジェクト型学習が行われています。

子どもたちの学校での生活

校舎は小学部と中学部で分かれていますが、歩いて2分程度の場所にあります。校舎のすぐ近くを流れる江津湖の清流は、透き通っていて川底が見えるほどきれいです。年間を通して水温が一定なので、夏は冷たく、冬はそこまで冷たくはならないとのこと。子どもたちはここで自然体験活動を行っています。

▲水がきれいで川底が見える

 

WING SCHOOLでは、低学年・高学年・中学生のクラスがあり、朝の会、帰りの会や自然体験活動などはこのクラスごとで行われています。教科の学習時間は学年ごとに分かれて学びますが、プロジェクト型学習の時間は学年問わず自分が希望したプロジェクトに入って学ぶため、異学年交流も積極的に行われています。週に1回は全校のみんなで学習する時間もあり、今の時期はWING文化祭の準備に全校で取り組んでいるそうです。

先生たちの温かい姿

WING SCHOOLの先生方は、一般の学校で教鞭をとっていた方が多く、それぞれ教員免許を持っているといいます。校長先生曰く先生方は「みんな穏やか」とのこと。実際にお話させていただいた先生方も皆さんとても優しく、子どもたちへの声かけもとても温かです。学校全体の安心できる雰囲気は先生方の態度からも作られているようです。

カリキュラムは?——教科学習に自然体験、プロジェクト学習も

学校教育法第一条に定められている一般的な学校では、学習指導要領で決められた内容に基づいてカリキュラムを実施することになっていますが、オルタナティブスクールでは、学校によって自由に決めることができます。WING SCHOOLでは、一般的な学校と同じように教科書を使って教科学習を行っています。前述の通り、教科学習は学年ごとに分かれて行われます。

同じ教科書を使っていると言っても、授業の雰囲気は一般的な学校とはずいぶん異なります。社会の授業では、子どもたちが床に座ってテーブルを囲み、授業をする校長先生の話を熱心に聞いています。途中、一人の児童がそのテーブルから離れ、部屋の壁際に置いてある荷物をガサゴソといじっていました。授業から関心が途切れてしまったのかな、と様子を見ていると、その子が荷物から顔を上げ「それって〜」と授業の内容について話をはじめ、またテーブルへ戻っていきました。先生や他の子たちもその発言を普通に受け止め、授業が進んでいくのです。

▲社会科の授業の様子

一般的な学校であれば、授業中に急に自席を離れた時点で先生から注意されることが多いかもしれません。しかし、この場面を見れば、子どもは授業への関心がなくなっているわけではないことがわかります。子どもたちは自由に過ごしながらも、教科についてきちんと学んでいるのがわかる瞬間でした。

高学年の授業では、国語で百人一首に取り組んだり、教科書を音読したりする姿がありました。また、2年生の算数の授業では、かけ算九九の暗唱に取り組んでいました。

このような教科学習を、WING SCHOOLでは基本的に午前中に行っています。午前中の授業は50分×3コマです。4年生以上の国語、算数、理科、社会、英語については、1年間午前中の授業のみで教科書の内容が問題なく終わるとのこと。低学年クラスは学年や曜日によっても異なりますが、授業の時数はさらに少なくなるようです。それでもやはり、教科書の内容はしっかり終わるということでした。中学生の中には、普段はWING SCHOOLに通って勉強して、在籍している中学校の定期テストを受けに行っている子もいるそうです。

WINGの根幹!プロジェクト型学習とは

WING SCHOOLの午後の時間は、図工(美術)や音楽等の技能教科や道徳、プロジェクト型学習、WING TIMEが曜日ごとに実施されています。中でも特徴的なのが「プロジェクト」の時間です。

WING SCHOOLのプロジェクト型学習は、子どもたちが自分の興味関心に基づいて選んだテーマについて深掘りしていく学習です。1年間を3シーズンに分けてプロジェクトを行っており、シーズンの終わりにはプロジェクトでの学びについて発表することになっています。

子どもたちが今実際に取り組んでいるプロジェクトは「アートプロジェクト」「コーヒープロジェクト」「PCプロジェクト」「薬草プロジェクト」など様々です。

コーヒープロジェクトは、世界中を旅しながら無料でコーヒーを振る舞う「フリーコーヒー」の活動を行なっている西川昌徳さんがWING SCHOOLにいらっしゃたことをきっかけに立ち上がったプロジェクトです。
西川さんの活動に感銘を受けた子どもたちが「コーヒープロジェクト」を立ち上げました。校舎からすぐの川沿いの道でコーヒーを淹れ、道行く方々へ無料で提供しています。通りがかった方へ「コーヒーいかがですか?」と声をかける子どもたちの姿は凛としていて、声をかけられた方もなんだかうれしそうな様子でした。

プロジェクトを進める中で、コーヒー豆を収穫したいと考えた子どもたちは、募金をつのって費用を集め、沖縄に行って豆を収穫してきたそうです。現在は、西川さんに教えてもらいながら自分たちで豆の焙煎にも挑戦しています。今シーズンの目標は、阿蘇のコーヒー屋さんに行くことだそうです。そこの店主の方は、自分で育てた豆で淹れたコーヒーを振る舞われているそうで、そこでの学びを目標に頑張っているようです。

▲コーヒーを淹れる子どもたち

 

アートプロジェクトは、子どもたちが絵を描いたり工作をしたりするプロジェクトです。
タブレットのアプリを駆使して絵を描いたり、段ボールで作品を作ったりとやっていることは個々で様々です。自分たちで絵を練習してレベルアップしていくだけでなく、いろいろな人から評価をもらいたいという思いから、現在はインスタグラムのアカウントを作り、そこで作品を発信しています。

▲タブレットに絵を描くアートプロジェクトのメンバー

 

PCプロジェクトは、今のシーズンから立ち上がったプロジェクトで、外部講師の方からオンラインで指導を受けながら、一人一人オリジナルのRPGゲームを作っています。

WING SCHOOLのプロジェクト型学習で外部講師の方が入ることは珍しいとのことで、新たなチャレンジだったということですが、参加している子どもたちはどんどんレベルアップしているそうです。
そもそもはじめは、みんなで一つのゲームを作る予定だったものが、一人ひとつのゲームになり、みんな同じキャラクターを使う予定だったものが、別々のキャラクターになり……とどんどん発展し、今では一人一人がオリジナルの自分だけのゲームを作っています。

 

薬草プロジェクトでは、学校の周辺の自然のなかで薬草を探して収穫し、収穫してきたものを使って料理をしていました。この日はよもぎをミキサーで細かくし、よもぎパンケーキを作っていました。また、アカマツの葉を瓶に入れ「松のサイダー」の仕込みもしていたようです。

作業中の子どもたちへ「よもぎはどんな効用があるんだっけ?」と先生が声をかけると、参考にしている辞典を開いてよもぎの効用を調べ、その中で読めない漢字があると先生に尋ねる、という姿がありました。先生のちょっとした声かけからも、子どもたちが自然と学びを深めていました。

▲集めてきたよもぎをミキサーで細かくしている

 

このように良い意味でエスカレートして、自分がやりたいと思ったことを次々と実現させていく子どもたちの姿こそ、プロジェクト学習の成果といえるのではないでしょうか。

教育に新たな”選択肢”を

WING SCHOOLでプロジェクト型学習に取り組んだ子どもたちは、卒業してからも、自分がやりたいと思うことをどんどん実現しているといいます。

以前「おりがみプロジェクト」というプロジェクトを立ち上げた子がいました。彼は、自分の好きな折り紙を研究し、どんどん作品をレベルアップさせていきました。ついには熊本県内の新聞で「折り紙の達人」と紹介され、折り紙教室を開いてお金を稼ぐこともできるようになったそうです。

このように、自分の「好き」からスタートしたものが、周りに喜ばれたり驚かれたりすることを知り、自然と仕事にまで変化させていくことができる「プロジェクト力」は、大人になっても必須の力です。教科書的な学力だけではなく、このプロジェクト力の高さによって、子どもたちは自分がやりたいことをどんどん実現させていくことができるのだと、WING SCHOOLが証明しています。

現在は、オルタナティブスクールやフリースクールに通うことが、在籍校の「出席」として認められるケースが増えています。熊本市内の公立学校では全校がそのような対応を決めていますし、ほかの自治体でも徐々に増えてきているといいます。また、WING SCHOOLでの学習の評定が、在籍校の評定として扱われる場合もあるとのこと。中学部の子どもたちが高校や専門学校に進学する際にも、オルタナティブスクールに通っているからといって、子どもたちに不利益なことは特別起きていないのです。

見学に伺ったこの日は、小学校6年生の女の子がお母さんと一緒に体験に来ていました。今は公立の小学校に通っているけれど、型にとらわれない自由な教育に自ら興味を持ち、WING SCHOOLの体験にやってきたといいます。自由に学ぶ在校生と交流し「お母さんここに来たい!」と何度もお願いする女の子の姿はとても印象的でした。

公立や私立の学校も、もちろん子どもたちが学ぶ場所として優れていますが、そこで行われている教育以外に選べる道が少ないことは事実です。子どもたちが学ぶ場所の新たな選択肢として、WING SCHOOLのようなオルタナティブスクールが増えていくことが、これからの社会を変えていくでしょう。
関心を持った方は実際に子どもたちの姿を見に行ってみてはいかがでしょうか。

 

参考:
WING SCHOOL ホームページ
WING SCHOOL facebookページ
熊本日日新聞|コーヒー振る舞い人つなぐ 熊本市の西川さん 国内外を自転車の旅、支え合い実感(2022年10月5日)

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