学校の先生の労働時間は長く、社会問題になっています。また、その厳しい労働実態が明らかになったこともあり、教員採用試験の志願者数も減少傾向にあります。現場の先生方は長時間の労働などのため体調を崩して休職することになったり、お休みすることになった先生の代わりの方も見つからない状態で学校が厳しい状況に追いやられたりする状況になっています。この状況がなかなか改善されない原因の一つに「給特法」が挙げられます。今回は、この給特法の現状に切り込んだ署名活動についてご紹介します。
「給特法」とは?教員に残業はない!?
給特法は、約50年前に教員の働き方について定められた法律です。1966年に行われた教員の勤務状況調査により、教員の残業時間は「週に2時間弱」とされました。そのため、教員の給与には「教職調整額」として給料の4%(=週2時間の分)が上乗せされる代わりに「残業」という概念がなくなり、もちろん残業代も支払われないこととなりました(※)。
この法律が現在も変わらず運用されているため、公立学校の先生は「定額働かせ放題」だと言われています。
学校に求められるものがどんどん増えているにも関わらず、働き方などについて定めた法律は変わっていないのです。
※「超過四項目」として、生徒の実習に関する業務、学校行事に関する業務、教職員会議に関する業務、非常災害等のやむを得ない場合の業務の場合は、「時間外労働」(=残業)を命じられる場合があります。
給特法の改善を求めている有志団体が活動中
現状と噛み合っていない給特法について、「給特法のこれからを考える有志の会」の方々が改善を訴えて活動されています。
給特法のこれからを考える有志の会トップページより
「給特法のこれからを考える有志の会」は、名古屋大学教授の内田良さん、作家の乙武洋匡さん、株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長の小室淑恵さん、現役の高校教師であり、「斉藤ひでみ」という名前で書籍の執筆もされている西村祐二さん、日本若者協議会代表理事の室橋祐貴さんなどで構成されています。
有志の会のサイトでは全員のプロフィールが顔写真とともに公開されています。
この有志の会では、2018年4月から給特法の改正を訴えてオンラインで署名活動を行っており、2019年10月時点で38,850人の賛同者を集めていました。
2022年の4月から改めて給特法の抜本改善を求める署名活動を始めています。2022年8月22日現在、44,312人が賛同しています。
▼署名は現在も行われています。
教員5,000人が休職!子どもにも影響が…。月100時間もの残業を放置する「定額働かせ放題」=給特法 は抜本改善して下さい! #教師のバトン
*署名にご協力ください*
平均残業100時間、教員不足、年5000人の休職者…このままでは日本が本当にダメになります
教師の残業に歯止めをかける為、50年前にできた諸悪の根源「定額働かせ放題」=給特法 の問題に挑みます!
何卒、ご協力をお願い致します!#教師のバトンhttps://t.co/bSBpxf8GqR
— 斉藤ひでみ・現職教師(西村祐二) (@kimamanigo0815) April 27, 2022
給特法の改廃を求める記者会見も開催
2022年7月26日には、有志の会の方々による署名中間報告の記者会見が行われました。
会見の中では、西村祐二さんから学校教員の現状、内田良さんから「給特法のもとでの時間管理なき長時間労働」について、小室淑恵さんから学校の働き方改革の具体的な事例、乙武洋匡さんから給特法がいかにこの国の未来を妨げてしまっているかということ、室橋祐貴さんから教員志望者減少に関する教員志望の学生向けアンケートの結果についてそれぞれお話をされています。
会見で使われた資料は現在も有志の会のサイトからダウンロードすることができます。
現在は給特法の改善を求める要望書(案)を公開中!
会見で現状を多くの方に伝えただけではなく、実際にどのように給特法の改善を求めるのかまとめた「給特法の抜本的改善を求める要望書」が作成され、公開されました。
主要政党に提出する
■定額働かせ放題=#給特法 の抜本的改善を求める要望書(案)
を公開しました!
皆様からのご意見を踏まえて確定できればと思っています。
是非ご意見を寄せ下さい!▼ご意見募集はコチラ~9/4https://t.co/Aa9qg6nU2J
▼要望事項は画像に pic.twitter.com/H1tSM9Xkxc
— 斉藤ひでみ・現職教師(西村祐二) (@kimamanigo0815) August 22, 2022
実際に要望書(案)を読んでみると、
A 給特法の見直しとそれに伴う業務改善の要望
- (A-1)労基法を適用し、他の地方公務員一般職と同じルールに
- (A-2)残業を労働と認め、使用者側に厳格な労働時間管理を義務づける
- (A-3)残業代の支給
- (A-4)時間外労働の罰則つき上限規制
- (A-5)休憩時間の確保も使用者側の責任に
- (A-6)持ち帰り仕事も使用者側の責任に
- (A-7)勤務間インターバル制度の導入
- (A-8)部活動の地域移行
- (A-9)学校外業務の削減(「学校依存社会」からの脱却)
- (A-10)授業準備時間の確保
B 残業代予算に関する要望
- (B-1)残業時間の削減(残業代の削減)
- (B-2)基本給の維持
- (B-3)教育予算の拡充(教育国債の発行)
C そのほかの要望
- (C-1)管理職評価に「残業削減」を追加
- (C-2)労働基準監督行政による改善
などが記載されています。(2022年8月22日現在)
この要望書(案)について、現在パブリックコメントが受け付けられています。
加筆、修正等の意見がある場合は、「給特法の抜本的改善を求める要望書案」パブリックコメントのフォームから有志の会の方々へ伝えることができます。
9月4日までとなっています。
給特法への問題意識を広げて
現役の教員の方や、身近に教員がいらっしゃる方など、問題意識のあるかたはもちろん、「給特法ってなに?」と思っている方でも、会見の動画を見たりや要望書(案)を読んだりすれば、公立の教員がいかにこの法律に苦しめられているか、現場がどれほど厳しい状態かを知ることができるでしょう。この有志の会の方々が熱意を持って活動に挑んでいることも感じられるでしょう。この問題に関心を持つことで、先生方の未来が守られるかもしれません。それはすなわち、子どもたちの未来が守られるということです。子どもたちのためと思って、給特法の情報に触れてみてはいかがでしょうか。
給特法の改廃をめぐり 行く先を憂う声も多いが
学校は 数年前にやっと
タイムカードが 設置されたような世界だそもそも 現時点で
毎月10万円くらい 搾取されている
すでに 地獄だ
十分に 地獄だ前途多難なのは 当然で
一つひとつ 改善し
一つひとつ 闘いつづけなきゃいかん道は長い
— 内田良:【新刊】斎藤環・内田良『いじめ加害者にどう対応するか』 #学校依存社会 (@RyoUchida_RIRIS) August 7, 2022
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