高校で行われる「総合的な探究の時間」、各学校で趣向を凝らした学習が行われています。昨年度末、探究学習を探究するワークショップを実施した福岡県立西田川高等学校では、今年も新たな挑戦が行われています。アントレプレナーシップ・プログラムに挑む生徒たちの様子を取材しました。
目次
単位制の定時制高校 西田川高校とは
福岡県田川市にある福岡県立西田川高等学校(以下、西田川高校)は、定時制の高校で、3年前から単位制を導入しています。生徒たちは自ら授業を選択し、単位を修得します。一般的な高校と同じように3年間で卒業する生徒も多いですが、4年間かけて卒業する生徒もいます。このような単位制高校で行われている探究学習もまた特徴的です。
在校生年次(一般的には高校2年生に該当する学年)では、学校の位置する田川や後藤寺地区の地域と連携し「田川探究」を行います。田川市役所や地域の商店街、企業などと連携し、様々な地域課題に向き合います。年度末には、自分たちが行ってきたプロジェクトについての報告会が開かれました。生徒たちは多くの聴衆の前で堂々と発表し、会場からの質問にも落ち着いて対応しており、学習の成果を感じさせる姿でした。
アントレプレナーシップ・プログラム「高校生Ring」にチャレンジ
田川探究を終えた生徒たちは、卒業生年次(一般的には高校3年生に該当する学年)を迎えた今年、株式会社リクルート(以下、リクルート)の「高校生Ring」のビジネスプランコンテストに参加しています。
高校生Ringは、リクルートが主催するアントレプレナーシップ・プログラムです。高校生自身の視点から課題を見つけ、その課題を解決するビジネスプランを提案するもので、全国から多くの学校が参加しています。
『高校生Ring』は、アントレプレナーシップを身に付けるための学びを届ける教育プログラムです。
リクルートではアントレプレナーシップを「自ら問いを立て行動し、変化を起こす力」と定義します。先の見通しが立てにくい時代に、「半径5m」にある自分の視点からビジネスを考えるプログラムを通じて、参加いただく高校生の皆さんが自分への理解を深め、興味があること、やりたいことを見つけるきっかけとなることを目指します。
引用元:株式会社リクルート 高校生Ring
1次審査は参加する学校がそれぞれ校内で実施。学校代表になったチームは2次審査へ進み、ビジネスプランをリクルートに提出します。
2次審査を通過できるのは30組。3次審査に向けて、リクルート社員とのメンタリングを受けながらプランをブラッシュアップすることができます。3次審査ではファイナリスト5組が選ばれ、最終審査「高校生RingAWARD」でのプレゼンに挑むことになります。発見・発想のオリジナリティ、ビジネスポテンシャル、圧倒的当事者意識をポイントに審査が行われ、グランプリと準グランプリが決定されます。
画像出典:株式会社リクルート 高校生Ring PROGRAM
問われる自分の軸―高校生の切実な思い
前述の通り、今回高校生Ringに参加しているチームのメンバーは、卒業生年次の生徒たちです。彼らは今年、進路について考えてきました。高校卒業後、自分が何をしたいのか、どう生きていきたいのか、そんな問いに向き合うことが多かったようです。どこへ進学するのか、何を学びたいのか、どんな仕事をするのか……進路について親や先生と話し合うこともあれば、入試などの面接で自分の考えを面接官に伝えることもあります。進路選択を目の前に「自分の軸」は何なのか考えることは、生徒たちにとって非常に切実な問題です。
しかし、自分で考えるだけでは自信が持てず、大人の意見に左右されてしまった経験がある生徒もいました。また、面接練習でも、指導してくださる先生によって着目するポイントが異なり、自分の本質的な課題がわからなくなってしまった経験もあるとのこと。これらの経験から、西田川高校のチームは、高校生が、第三者的な視点をもった大人に相談できるサービスがあったらいいのではないかという考えに至りました。
そこからまとめたビジネスプランは、まさに自分たちの「半径5m」に着目したものに仕上がりました。このプランを完成させるためオンラインで行っていたミーティングは、深夜にまで及ぶこともしばしば。こだわりを持って作り込んだビジネスプランを提出して約1ヶ月後――
西田川高校のチームが提出したビジネスプランは、2次審査を通過!全国から寄せられた約1200の案件から30の中に選ばれたのです。
3次審査へ向けて動き出す生徒たち
生徒たちは3次審査のプレゼンテーション提出に向けて動き出しました。はじめは、プロジェクトを担当している北先生が主導し、振り返りを行います。
リクルートの担当者からのフィードバックコメントを受け、感じたことを黒板に書きながら共有します。
「料金設定を見直した方がいい」
「初めての人にも伝わるようにキャッチコピーがあったほうがいい」
「アンケートを取りたい」
など、具体的な改善点や施策が見えてきました。
さらに、北先生の提案で、昨年度の高校生Ringの最終プレゼンの動画を視聴し、自分たちのプレゼンに活かせそうなポイントを探し出します。
▲去年の動画に見入る生徒たち。すごく緊張している生徒も。
「じゃあ、12月と1月のスケジュールを立てよう」
と北先生が声をかけると、生徒たちが自分自身で課題やタスクを整理していきます。
「まずアンケート取りたいよね」
「西田川はやっぱ特殊やん?いろんな学校から聞きたい」
「アンケート作る前にサービスをもっと固めたほうがよくない?」
「今から実行するだけのところまで作って……」
チームのメンバーで話し合いながらスケジュールを決めていきます。さらに、実際にサービスを運用するために必要なものを書き出していきます。
▲スケジュールを検討する生徒たちと、その様子を見守る北先生
3次審査の締め切りまで2ヶ月弱。タスクも多く、スケジュールはかなりタイトなものになりました。それでも生徒たちからは「自分たちが納得できるものを仕上げたい」という強い思いが伺えました。
物事を前に進める力―田川探究から起きた行動の変化
「アンケートはさ、高校生だけでいいの?」
「画面のイメージがあるともっといいかもね」
生徒たちがスケジュールを組んだり、タスクを洗い出したりする間、北先生はところどころでコメントするのみ。生徒たちはそれを受けて、自分たちでどんどん話を進めていきます。具体的な指示がなくても目的に向けて動いていく力は一体どこから来るのでしょうか。その背景には、在校生年次で取り組んだ田川探究がありました。
田川探究で初めて自分たちでプロジェクトを進める経験をした生徒たち。先生は助けてくれないし、自分たちがプロジェクトを進めるしかありません。自分たちのチームのメンバーだけで考え、やることを決め、実行しなければ、何も進まないことを体感しています。その経験を経て生徒たちが口にしたのは
「考える機会が増えたかなって思います」
「いろんな人の考えを聞いてみたいと思って、イベントに参加してみるようになりました」
「自分の意見を言うことへのハードルが下がったと思います」
ということ。
田川探究の学習を経て、物事をよく考えるようになる。色々な人の話を聞きに行ってみるようになる。自分の意見を言えるようになる。生徒たちの行動には、こんな変化が起きていたのです。
優勝できる!―西田川高校の挑戦やいかに
この高校生Ringの取り組みも「大変やったし、面倒だし、つらいと思ったこともあった」とのこと。それでも、1人じゃなく、チームみんなで進めるプロジェクトです。審査に通るか通らないかにかかわらず、「自分たちが納得できるものにしたい」という思いが大きくなっていきました。だから、タスクが多くとも、スケジュールがタイトでも、最低限みんなが納得するものを仕上げるために頑張る。生徒たちからはそんな熱量が感じられました。
3次審査に向けて振り返りを始めたとき、一人の生徒が黒板にこう書いています。
「優勝できる!」
チームのみんなが納得できるものを仕上げれば、絶対にいいものになるという自信は、実際に行動してきた生徒たちだからこそ湧いてくる思いでしょう。西田川から、最終プレゼンの東京まで行くことができるか、熱い冬を迎える彼らに期待が高まるばかりです。