学校・地域・社会が連携してキャリア教育に取り組んでいる事例が増えています。その中でも特色ある広島県大崎上島町の高校で行われている「大崎海星高校魅力化プロジェクト」についてご紹介します。
目次
大崎上島ってどんなところ?
広島県にある大崎上島町は、瀬戸内海にある島です。橋はつながっておらず、安芸津港や竹原港から30分程度で渡ることができます。みかんやレモンなどの農業と、造船業が盛んな島で、教育に力を入れています。
大崎海星高校魅力化プロジェクトとは?
魅力的な離島大崎上島ですが、1985年には14,101人だった人口が、2015年には7,992人、2020年には7,158人にまで減少しています。(*人口はいずれも国勢調査より)
その人口減少の影響を受けて、島唯一の県立高校である「大崎海星高校」が、統廃合の対象となってしまいます。そこで危機感を抱き、立ち上げられたのが「大崎海星高校魅力化プロジェクト」です。教育内容の魅力化、公営塾の設置、生徒の全国募集など、町の支援を得ながら進められています。どの取り組みも充実していますが、本記事では公営塾「神峰学舎」で行われているキャリア教育にフォーカスをあて、ご紹介していきます。
公営塾「神峰学舎」
神峰学舎は、大崎海星高校の中にある公営塾です。生徒が自分で必要だと思う勉強を行い、塾のスタッフの方がそれをサポートしていきます。また、大学進学という進路について知るために、大学のガイダンスを行ったり、受験勉強について先輩から聞く機会を持ったりするなど、生徒が納得して自分の進路を決める環境を整えています。
キャリア教育の取り組み「夢☆ラボ」とは
さらに、神峰学舎では、キャリア教育の取り組みを行っています。その名も「夢☆ラボ」。
「自分自身を深く知る」「対話によって相手を知る」「社会を深く知る」という機会をつくり、キャリアの選択肢を増やしているといいます。
たとえば「カタルタ」というカードゲームを使った対話のワークや、「マシュマロタワー」による他者理解のワーク。マシュマロとパスタを使って、制限時間内にタワーをつくるワークから、お互いに何を考えていたかを言葉で共有することで、相互理解のきっかけが生まれます。さらに、絵を描くことで自己表現の楽しさや他者について学ぶ「アートワークショップ」なども行われています。
多様な”人生”に出会う場
生徒たちが卒業後に納得できるキャリアを選ぶためには、「選択肢そのものを増やす」ということが重要です。そこで夢ラボでは、オンラインオフライン問わず、多様なキャリアを歩んでいる方々にゲストとして登壇してもらい、交流の場を作っています。
今までのゲストは、e-sportsの領域で活躍しているプロゲーマー、ラジオ局のDJ、シンガーソングライター、プロダンサー等。生徒たちが興味のあるジャンルや、やってみたいと思うことを出発点に、さまざまな人生が生徒たちと共有されています。しかも、その企画は生徒自身が行っているというから驚きです。
場を生徒がつくる
先述のシンガーソングライターの方を招いた授業は、「シンガーソングライターになりたいけどなり方がわからない」という生徒の思いからできたもの。
全5回の授業として企画し、作詞作曲のノウハウを共有してもらったり、その方の生き方を聞いたり、自分の曲の活用方法を学んだりして、最終回では参加している生徒たちが自ら作詞作曲した曲を、実際に発表するという大きなプロジェクトになりました。
「夢☆ラボ」を担当している高橋さんは、そのプロジェクトの最終回に向けて、授業時間外を使って懸命に練習する生徒たちの姿が印象に残っているといいます。
発表会は大成功。このプロジェクトを企画した生徒は、その後も自分で作詞作曲をし、島のイベントで披露するようになったそうです。
学校の授業なども含め、普段から「何をしたいか」と問われることに慣れている生徒たち。神峰学舎ではそんな生徒たちから「こんなことやりたい」「これを知りたい」というアイディアが自然に出てくるといいます。スタッフの方々が生徒たちの思いを受け止め、サポートしているからこそ、自由な発想で、本当にやりたいことや知りたいことに近づいていくことができるのでしょう。
町を巻き込んで
夢☆ラボは、神峰学舎の中だけにとどまりません。島民にも対象を広げた特別講座も実施しています。地域住民の方々にも学び直しの機会や、生涯学習の機会を提供するためです。
世界で活躍する医師や、著名な塾講師や作曲家などに参加してもらい、交流する機会を作っています。広島東洋カープの選手に登壇してもらった時には、地元の小学生も参加していたそうで、球を速く投げるためにはどうしたらいいかなど熱心に質問していたとのこと。「本物」に触れる機会が、高校生に限らず町に開かれています。
“自分がアクションしたらつながれる”
高橋さんに伺うと、夢☆ラボでゲストを迎えることは「すごい人がいるって知ってほしいわけではない」といいます。「自分がアクションしたらつながれるって経験をしてほしいんです。」
自分が行動したら思っていたことが実現するという成功体験は、生徒がそれから先の生き方を選び取っていくときに大きな影響を与えるでしょう。「まさに自らの力で生き方を選択 していくことができるよう必要な能力や態度を身に付ける」というキャリア教育のポイントにかなった取り組みです。
島の環境は恵まれていますが、そこで過ごすことも、そこから出ることも、また戻ってくることも「選択肢」です。自らの手で選択肢を増やせることを身をもって感じた生徒たちの、将来が楽しみです。
お話を聞いた方 高橋貴一さん(公営塾「神峰学舎」スタッフ)
参考:
大崎上島町観光協会
大崎海星高校
大崎海星高校魅力化プロジェクト
公営塾神峰学舎